ネットワークに賭ける未来 「ソニーオンラインサービス」積年のビジョンは今度こそ花開くのか [Sony Group]
今春、ソニーは将来の命運を賭けるネットワークサービスを始める。「ソニーオンラインサービス(SOLS)」だ。テレビやブルーレイディスク(BD)レコーダー向けに映像などのコンテンツを配信する。複数の機器間で、消費者の購入情報を一元管理できるようにするこの新サービスで、他社との差異化を図る。
ハードとソフトの融合は、出井伸之・前会長時代から掲げてきた10年越しのビジョン。しかし、その成果はいまだ見えない。今度こそソニーの構想は実現するのか。
第2回目はネットワークプロダクツ&サービスグループ(NPSG)を率いる平井一夫EVP兼ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)社長と、その右腕の鈴木国正業務執行役員SVP(NPSGデピュティプレジデント)兼SCE副社長に聞く。
新組織でグループ内の壁解消へ
——平井一夫EVP兼ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)社長
—— 足元の販売状況をどう受け止めていますか。

1960年生まれ。84年国際基督教大学教養学部卒、CBS・ソニー(現ソニー・ミュージックエンタテインメント)入社。ソニー・コンピュータエンタテインメント・アメリカCEOなどを経て、2006年ソニー・コンピュータエンタテインメント社長。2009年4月から現職
平井 ネットワークプロダクツ&サービスグループ(NPSG)の商品群についていうと、年末商戦は好調でした。とりわけゲーム機の「プレイステーション(PS)3」、パソコン「VAIO(バイオ)」、米国で発売した電子書籍端末「リーダー」などの手応えが良かったです。
PS3は全世界で380万台を販売し、発売から最も好調な年末商戦となりました。有力なゲームソフトが色々揃ったことも大きかったです。「コール オブ デューティ モダン・ウォーフェア2」「アサシンクリード2」「アンチャーテッド 黄金刀と消えた船団」。そして日本ではPS3向けのみとなった「ファイナルファンタジー13」もPS3本体の拡販に貢献してくれました。
パソコンもシェアを伸ばしました。ウィンドウズ7発売効果に加えて、薄型軽量の「VAIO X」といったユーザーに評価してもらえる洗練されたデザインの製品が出てきたことも奏功しました。リーダーは市場が伸びている中で、3G(第3世代)の無線通線機能を搭載した新製品が好評でした。
今年1月に米ラスベガスで開催されたCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)では、各社とも3Dを展示の目玉に据えました。各社強弱はありますが、コンテンツに力を入れる方針も打ち出していました。
ゲームで培ったネットワーク資産生かす
—— コンテンツへの取り組みはソニーが先行してきましたが、各社もキャッチアップしてきています。脅威を感じませんか。
平井 当然のことながら競争は激化しますが、ソニーには強みがあります。グループ全体での戦略の中でプレイステーションネットワーク(PSN)を活用できることです。PSNのアカウント数は約4000万。液晶テレビのブラビア向けにSOLSがスタートした瞬間、このアカウント数がすでにサービスに登録されていることになります。
そして36カ国、22通貨、12言語に対応していることも大きい。SOLSはこの基盤を活用して、3月からまずは米国や日本、英国、ドイツなど6カ国に向けてテレビやパソコン向けに順次サービスを始める予定です。
どの地域でもなるべく早い段階で展開する考えですが、コンテンツについては地域特性を考慮します。例えば今、日本においてPSNの映像配信はアニメ中心でやっています。米国はテレビ番組やハリウッド映画などから始めました。あと半年とか1年したら、日本でも多くの機器向けのサービスとコンテンツが揃ってきているはずです。
ネットワークに特化したソニー・ネットワークエンタテインメントという新会社も作りました。SOLSやPSNのサービス運営からコンテンツ獲得交渉まで、オペレーション全般を担当します。
新体制で意思決定が高速化
—— 昨年4月、ソニーは組織を刷新して、NPSGとコンスーマープロダクツ&デバイスグループ(CPDG)という2つの製品統括組織を作りました。ソニーは遠心力が働きやすいと指摘されてきましたが、新体制ではどうでしょうか。
平井 体制を大きく変えたことで、ソニーグループ内のマネジメント層で人的交流が深まりました。これによって意思決定が格段に早くなりました。NPSGにはエグゼクティブコミッティーという会議体があり、これにソニーとSCEなどから幹部が参加しています。これによって持ち帰るなど調整のタイムラグがなくなりました。
組織的にSCEはNPSGの中に入りましたから、この2組織の中では調整すらない場合もあります。パソコン事業トップの鈴木国正SVPは、昨年7月からSCEの副社長も兼務しています。つまりバイオとプレイステーションの連携話なら鈴木のところで決められるわけですから、その場で意思決定できます。
私にしても同じです。1年前の体制でソニーがSOLSをやろうとして、SCEのインフラ(PSN)を使おうという話になったとします。でも以前の私はSCE社長という立場ですから、SCEのメリットを考えなければならなかった。今はソニーのNPSGのトップも兼ねていますから、SCEが完全に同じ方向に向かって進めることができます。
ソニーはハードからネットワーク、コンテンツまで多岐にわたるビジネスをカバーしていますので、それを組織的に担保する必要があります。単一ビジネスをやっている企業のようなわけにはいかない。我々はハードが3つ、サービスが4つしかないような企業ではないからこそ、マネジメントを工夫して効率良く回るような体制にしています。
—— なぜ今のタイミングで一体感が出たのでしょうか。
平井 多くの要因がありますが、1つはネットワークの存在が大きくなったという環境変化が上げられます。昔は製品においてネットワークはあればいいけど、別になくても製品は成立するというものでした。でもPS3やリーダーを見て下さい。ゲームは半分以上がオンライン対応です。もはやネットを介するサービスが不可欠になっています。
組織の壁はなくせる
—— ソニーでは事業組織間の壁が「サイロ」と呼ばれ、これを崩すのが長年課題とされてきました。
平井 組織を変えたからといって、サイロが昨年4月から急になくなったわけではありません。ただしソニーとSCEの間ではサイロという表現が、一部で1人歩きした部分があったと思います。例えば、両社が徹底的に協業して作り上げたのがPS3です。それなしにはできなかった。
現場での温度差が一晩で変わるものではないですが、そうした問題は確実に解消されています。横の交流を作る取り組みも継続的にしています。
SCEはNPSGの一員で、ソニーグループの一員です。SCEにはソニーをサポートするだけではなく、逆にドライブする力もあります。そういう形で意識改革を進めています。もちろん、ソニーから見たSCE観も同様に変わってきていきます。
—— これだけ緻密なやり取りをするのであれば、SCEを別会社にしておく必要はあるのでしょうか。
平井 それはソニー・ミュージックエンタテインメントやソニー・ピクチャーズエンタテインメントをソニーに取り込むと言っているようなものです。エンタテインメントとエレクトロニクスのビジネスは業態も手法も異なります。
ただし、SCEの場合はハードを持っているところが違う。ですからSCEのネットワーク事業の部分はソニーと一体感を持ってやっていこうと考えています(注)。でもゲームビジネスの部分はSCEでしっかりとやっていかねばいけません。
(注)ソニーは2月24日、SCEのネットワーク事業関連部門を4月1日付でソニー本体に吸収すると発表した。
多彩な機器がネット時代の差異化に
——鈴木国正・業務執行役員SVP(NPSGデピュティプレジデント)兼SCE副社長
—— NPSGの事業領域について、他メーカーとの競合状況についてどう分析されていますか。

1960年生まれ。84年横浜国立大学経済学部卒、ソニー入社。サウジアラビアや米国勤務を経て、95年にソニーアルゼンチン社長。99年にグローバルVAIOダイレクトカンパニー統括部長。パソコン事業拡大に貢献した後、2007年コンスーマープロダクツグループ商品事業戦略室長、同グループ総合企画室長を歴任。米ソニー・エレクトロニクスEVPを経て、2009年4月よりNPSGデピュティプレジデント。同年7月からSCE副社長を兼務し現在に至る。
鈴木 CESに参加しましたが、キープレーヤーがみんな同じ方向を向いている印象を受けました。1つは3D。そして我々NPSGのビジネスに関連する「コンバージェンス(融合)」です。ネット、ハード、コンテンツの組み合わせをどのメーカーも打ち出しています。電子書籍端末やフラットなタブレットタイプのパソコンがたくさん出展されていました。
米アップルはCESには出ない企業ですが、彼らが業界内の1つのわかりやすいベンチマークということは事実です。世界観という意味では彼らも、ネットワークサービスとハードの融合を打ち出しています。
—— その中でソニーはどのように差異化しますか。
鈴木 ネットワークサービスとハードの融合は、もちろん我々もしっかりと打ち出していきます。今、ソニーにはネットワークにつながっている主な製品だけでも携帯電話、パソコン、プレイステーションの3つがあります。それからテレビやビデオカメラ、デジタルカメラなどもある。こうした数々の製品を通じて、コンテンツをシームレスに楽しめるといった体験を、しっかりとわかりやすく提供することが大事です。
どれをとっても事業をやめるような理由はないですし、むしろネットにつながっていないものをつなげることで一層面白くできる。その意味ではアップルとはアプローチが違います。
技術よりコンテンツの幅が重要
—— SOLSの基盤になるのはPSNです。ゲームはユーザーもネットワークに対する感度の高い人が多い。ですがSOLSで想定しているテレビを観る一般の消費者とは、必ずしも一致しないのではないでしょうか。
鈴木 ソニー製品の中でもパソコンやプレイステーション、携帯電話などを使っているのは、一番ネットに親和性が高いユーザーです。テレビについては時間軸の問題でしょう。100人が100人、2年以内につながって楽しむかというとそれは違うとは思いますし、ネットの普及率など、地域差によっても異なると思います。
消費者にとっては技術よりも気楽に観られるコンテンツの幅が広がることが重要です。テレビのチャンネルがどんどん増えていって、それがインターネット経由のコンテンツだったりする世界になる。そこをいかに快適に操作できるように作り込むかが腕の見せ所です。
—— 3D化の流れはネットワークサービスにおいても、ソニーの競争力につながるでしょうか。
鈴木 ハードの面で言うとテレビやプレイステーション3など、色々な製品が共通して3Dに対応していく世界を当然実現していきます。3Dに関してソニーはグループの総力を挙げて、コンテンツから放送局、製品まで、エンドツーエンドで見られるようにしていきます。
まずは一早くコンテンツを提供することで業界を引っ張ることがなにより大事です。業界をソニーがリードすれば、自ずとスピード感などで差異化ができる。具体的なタイトル名は言えませんが、今夏に発売予定の3D対応テレビと同じタイミングで3D対応ゲームも発売する予定です。
二律背反に見えても実際にはいける
—— デジタル家電においては、ハードの優位性で差異化するのは難しいといわれます。ネットワークにおいてもオープン化が将来的には求められるでしょう。その中でソニーはどうやって優位性を保つのでしょうか?
鈴木 二律背反に見えても実際にはいけるんだろうと考えているんです。事実アップルはそうしていますし。
基本的にはハードが重要です。ネットワークサービスはその背後に控えているものです。顧客にとっては技術よりも体験が大事ですが、最初に接する入口は常にハードです。ですから綺麗で持っていて楽しいハードを作るのがボトムラインになる。ここでさすがソニーという製品をどんどん出し続けることが必要です。
ネットワークのオープン化については、面白いサービスを作ることに知恵と努力を注力できるようになると考えています。外にある技術リソースなどを使えるようになりますから。
—— ソニーが新たなビジネスモデルを生み出したのはプレイステーションが最後だったのではないでしょうか。これからソニーはSOLSなどオンラインを強化することで、儲ける仕組みをどのように変えていくのでしょう。
鈴木 まずハードで儲けないと話になりません。その上でどうサービスなどを乗せていくかが問題になります。ビジネスモデルがその観点からひっくり返ることはありえない。
みんな同じ壁にぶつかっている
SOLSはコンテンツを売るというビジネスだけでなく、製品の周知といったメディア的な役割を果たすこともできます。それにゲームとPCと携帯電話とテレビという横の面白い体験を作り込むこともできる。こうしたカテゴリーをまたぐ機能が重要になると思っています。
業界全体を見渡すと、みんな同じ壁にぶつかっています。もちろん今、半導体で儲けているとか、広告で儲けているといった違いはあります。でも、行き着こうとしている先はみんな似たような場所になります。その中で幅広い視点を持って、スピード感を持ってやることがどこまでできるかという勝負になります。
ソニーは人を楽しませたり驚かせたりというのが得意な会社です。我々の事業範囲は広く、面白いものを作れる環境はありますので、後は目の付けどころです。コンバージェンスは大きなマーケットですから、「2社で全部を総取りする」などということはありません。多くの企業が市場を分け合うことになると考えています。その中で正しい絵を描けるかがポイントになります。







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